好きなカードデザインの話
こんにちはこんにちは.pelkです.
本記事は KMC Advent Calendar 2020 - Adventar の12/5(土)の枠の記事となります.
12/4(金)の枠は nos さんの"耳かき店にいった話(予定)"
12/6(日)の枠は id:dnek さんの"AtCoder青になったので競技プログラミングの話 - DNEK's blog"です.
他にも面白い記事が出てくると思いますので他の記事も見ていってね.
カードデザインの話
閑話休題.
本記事ではTCG,特にMtG――マジック・ザ・ギャザリングのデザインの話をしていきます. *1デザインといっても, グラフィックの話ではなくカードの効果のデザインの話です.
カードの効果といっても,「≪長老ガーガロス/Elder Gargaroth≫は≪悪斬の天使/Baneslayer Angel≫型のクリーチャーなので除去が濃い環境だと使いづらい」や「≪精霊龍、ウギン/Ugin,the Spirit Dragon≫は更地にプレインズウォーカーを自力で出来るから嫌い」といった話をする訳ではありません.
私が今回話したいのは「カード効果とカードのモチーフ・背景との調和」です.
カードゲームは時折現実世界のものをモチーフにしたカードが登場します. 例えば,≪電池メンー単三形≫*2とか,デュエル・マスターズのクリーチャーの魔導具*3とかです.
今回主に話すMtGというカードゲームにも,このように現実世界をモチーフにしたカードが多くあります......少しわかりにくいですが. MtGはハイファンタジーな雰囲気を大切にしているカードゲームですが, 舞台背景を現実の神話や物語などに寄せている弾が往々にしてあります. 例えば,
ビックリするほど古代エジプト文明的ですね*5.
他にも,日本(海外の方から見た)モチーフや,「アラビアン・ナイト」という直球ストレートなものまで. 全てそうという訳ではありませんが,MtGにはこうしたものが多く見られます.
私はこういったモチーフのあるカードが結構好きです.
この上,カードの効果もそのモチーフに寄せられると心を奪われてしまいます.
本記事では,そういったモチーフとカード効果の調和がとれたカードを何枚かご紹介できたらなと思っています.
モチーフと共鳴するカードデザインの数々
1. アキレウスとアキレス腱
さっきも例示の中に挙げましたが,これは効果も秀逸なのでここで解説させてください.アキレウスとアキレス腱の逸話はご存じですか?「イーリアス」とその周辺の話はとても面白いので是非とも読んで見てください.簡単に説明すると,
勇猛な英雄アキレウスは,幼い頃母によりかかと以外不死になり,トロイア戦争で獅子奮迅の働きをし劣勢のギリシア勢を救う. しかし,イーリオス勢のパリスにかかとを射貫かれ,重傷を負いそのまま死んでしまう.
という話になります. 要約するとなんと味気ない.
ではカードを見ていきましょう.
1. 各戦闘で、無傷のハクトスは可能なら攻撃する。
勇猛果敢なアキレウスをそのまま表しています.「イーリアス」では,アキレウスは友人を無残に殺されて復讐に怒り狂っているので,その部分も表現しているのかも知れません.
2. 無傷のハクトスが戦場に出るに際し、2か3か4を無作為に選ぶ。 無傷のハクトスは、プロテクション(点数で見たマナ・コストがその選ばれた値でない)を得る。
これはちょっとわかりにくいですね.プロテクションというのは,「括弧内の条件を満たすものからは対象にされず,ブロックされず,ダメージも受けない」ということを表します. つまり,最初のアキレス腱選定で選ばれなかった数のマナ・コスト(右上のアイコンの数です)の呪文やクリーチャーはハクトス(アキレウス)にはなすすべもありません. クリーチャーはブロックも出来ないので暴れ回るアキレウスを止められなかったエチオピア勢やアマゾン勢さながらプレイヤーに6点のダメージを与えるハクトスを側で見ていることとなります*6.
3. 6/1
これは,パワー(攻撃力)が6でタフネス(体力,HP)が1であることを表します. 先述のとおりハクトスはちょっとやそっとでは倒せないのですが,アキレス腱=無作為に選ばれたマナ・コストの呪文・クリーチャーでは簡単に倒されてしまいます. 最期の呆気なさはアキレウスさながらと言えます.
4. 「大勢の者が私の弱点を探してきた。みな諦めた。」
ここはフレイバー・テキストといって,対戦には関係無いのですがフレーバー的に大いに関係あります. 見てくださいよこの余裕綽々な発言. 本家も言ってそうないかにもな発言ですね. イラストの平然とした表情と併せて見るとより味わい深いです.因みに弓の雨は確定で避けられます. これは1マナなので.
2. むかしむかし
むかーしむかし,あるところに......
昔話の最初の言葉としてあまりにも有名ですね. カードの効果としても,最初に唱える*7と何とコスト無しで使用できます. 凄い!*8因みにこのカードのイラストは「この弾のストーリー」の最初を描いたものです.
あまり灰を被ってなさそうな灰被りと
いかにもな意地悪おばあさんが居ました.
コモン*9のカードはリミテッド*10の関係上効果の設定が非常に難しいのですが,そのような制限下でもこの≪意地悪な後見人/Wicked Guardian≫はとても良く出来ていると思います. 意地悪ばあさん特有のいじめを味方クリーチャーに2点のダメージで上手く表現していますね. 物語の主人公であるシンデレラの裏では,きっと沢山ののシンデレラ候補がこのばあさんによって......
こんな悪いばあさんはかまどに放り込んでやりましょう.
今まで贅沢な思いをしてきたのでしょうか,ライフを3点も回復できる≪食物/Food≫が出来ました!おいしそうですね. やったね.
......おおっと,これではヘンゼルとグレーテルのお話になってしまいました.本筋(?)に戻ります.
さて, お城の舞踏会に行きたいシンデレラ, 墓地で亡き母親に祈ります.すると,目の前には......
立派なかぼちゃの馬車が!
このかぼちゃの馬車,ちゃんとネズミ2匹で牽引できるのが良いですね.「シンデレラ」ではネズミたちが馬に変身していたようですが,MtGでの馬は3/3や5/5が相場なのでちょっと強すぎるなぁ......
この"ハツカネズミ/mouse"という種族はこの為に新しく新設されたものです.これまでに存在していたネズミは皆"ネズミ/rat"だったんですが,薄汚いラットがメルヘンな馬車を牽くのはあんまりにもあんまりだったため新設されました.ビジュアルは大切ですからね.英語圏特有の事情とも言えそうです.
これでめでたくお城まで行けます.お城で王子様とダンスし,うきうきなシンデレラ.しかし......
この王子様,英語では"Charming Prince"と言います.それがどうしたのかと言うと.この皇子が持つような一つ選んで発揮する系の効果は伝統的に"Charm/魔除け"と名付けられていて,それが上手いこと名前にフィットしています. 恐らく名前が先でしょうが,こういう洒落っ気はついニンマリしてしまいますね.
私がニンマリするためだけに話の腰を折りました. 戻りましょう.
しかし,12時には魔法が解けてしまいます.シンデレラは急いで帰りますが,あまりにも慌てたためガラスの靴を落としてしまいました.
なんとか間に合い,みすぼらしい(?)姿を見せずに済みましたが,王子と良い感じだっただけにがっかり.王子の方も王子の方で,靴を手がかりにシンデレラを捜索します......
≪真夜中の時計/Midnight Clock≫は集めるカウンターが12個と,12時にかかっていて面白いですね. 一つ目の"(T):(青)を加える."も マナが出る=土地的な働きをしていて,この時計の下にはマナを産出するような立派な城が存在するのかな,などと邪推もできますし,時刻カウンターが12個集まった時の効果も「手札・墓地を全て山札に戻し7枚引く」=初期手札の7枚とかかっていて,「魔法が解ける・元に戻る」といったフレーバーも感じられており良いデザインだと思います*11.
≪自然への回帰/Return to Nature≫は再録カードですが,新しいイラストが素敵ですね.効果としても≪魔法の馬車/Enchanted Carriage≫を破壊できるカードにこのイラストを載せた,ということで開発部の粋な計らいを感じます.フレーバーも良いですね.
王子はシンデレラを探していましたが,中々このガラスの靴を履ける女性は出てきません.だめもとでシンデレラに試してみると......なんとすっぽり!こうしてシンデレラは無事王子様と結ばれたのでした......
めでたしめでたし.
この人たちは誰?この人たちはこの弾のストーリーの重要人物です.公式サイトから物語ダイジェストを読んでみてください!面白いですよ. 読んで. 下のリンクをクリックするだけです.
それはさておき,どうして1マナ支払うだけで装備できる靴を街の娘さん達は装備出来なかったのでしょう?そしてどうしてシンデレラは再装備できたのでしょう?
......これはもうシンデレラだけがマナを支払うことができたと考える他ありません.MtGの世界では,マナの概念を知り扱う事ができるのは「プレインズウォーカー」という特殊な存在だけです.すなわち,シンデレラはプレインズウォーカーだったからマナを支払い再装備することが出来たのです!これで,序盤の疑問だった「灰を被っていない灰被り」の謎も解けましたね.マナを扱う事が出来るのなら,呪文を唱え灰を被ることなく掃除することも朝飯前でしょうし,プレインズウォーカーは大体20点ほどのライフを持っていることが多いのでおばさんの意地悪に10回ほど耐えることもできるでしょう.これはもう間違いありません.
Ω<なんてことだ、シンデレラはプレインズウォーカーだったんだよ!
な、なんだってー!!>Ω ΩΩ
”クリーチャー一体を対象とし”
一旦ここまで
前任者が爆破されてしまったので,一旦ここで本記事を終えようかと思います.私は新型ですので,決して5000字という数字に慄くなんてことはやっておりません. 爆発オチはさいてー!
「2. むかしむかし」の一連の流れは全て「エルドレインの王権/Throne of Eldraine」の弾のカードで構成されています. お察しの通り,この弾のカードの多くはおとぎ話がモチーフになっていますので,カードの効果が分からなくともにまにまできると思います. 是非カードギャラリーを見てくれ......!
結局まともに解説したのは一枚だけでしたが,他にもフレーバー的に好きなカードはまだまだあるので(エルドレインの王権にもまだまだありますよ),平時にもちょこちょこ書いていけたらなと思っています.
この記事で,対戦以外にもカードゲームを楽しむ方法はあるんだなと思っていただけたら.
ではでは.
そういえば本記事は KMC Advent Calendar 2020 - Adventar の12/5枠の記事でした.
明日12/6の枠は KMCID: dama (DNEKの名で活動しておられます)さんの競プロのお話だそうです. Atcoderで青になられた記念だとか. めでたい.
その他本記事よりも遥かに面白い記事が沢山出てきますので是非読んでみてください. 読んでください. 読んで.
ではではでは.
12/6 追記
DNEK(dama)さんの記事が公開されましたのでリンクを追記しました.
私は競プロ何もわかんないヒューマンなので特に気の利いたことは書けないんですが,ライブラリ等の話を見るたびに,そういうのをあまり知らなくても動くものが作れるUnityって初心者に優しいんだなぁと思いますね. レベルが上がってくると,Unityの痒いところに手が届かないもどかしさに悶え苦しむとは良く聞きますが...... これ以上話すと僕のウデマエが露呈してしまうのでこの辺で.
*1:最近僕がMtGしかしていないからです.弟と和気藹々と遊んでいます.皆もやろう!
*2:これは分かりやすいですね.直列・並列を攻撃力/守備力上昇で表現しています
*3:上手い例が思いつきませんでした.詳しい方はあとでこっそり教えてください
*4:左はアキレス,中央はゼウスですね.一番右の兜はローマのものですが,1対1で怪物に立ち向かう英雄像はギリシャ神話のそれです.
*5:説明不要ですが一応.左はファラオ,恐らくツタンカーメン,真ん中はミイラ(そのまま!)右はピラミッド(そのまま!)です.右は効果を見る限り崩れていっていますね.ストーリーを反映した良いデザインだぁ.
*6:因みに実戦では,2・3・4マナのカードはよく使われるので余程のことが無い限りすぐ止まります.悲しいですね.私も悲しいです.
*7:ぴったりな用語ですね.こういう偶然の産物も好きです
*8:あまりにも凄すぎて,スタンダードで禁止になってしまいました. 従ってスタンダードでは何の物語も始まりません. 悲しいですね.
*9:レアリティです.中央右のアイコンが黒いカードはコモンで,パックからいっぱい出てきます.
*10:特定のパックを開け,その中のカードのみで闘うルールです.
*11:正直なところ,最後の効果は有名なカード≪Time Twister≫を意識したものだと思います.でも本家の方もそうした意味合いでのネーミングの可能性はあるし,あながち間違ってないのかな.